高橋五郎氏の「天皇の金塊」、あっという間に読み終えました。

正直を言えば、少し物足りなかった。彼があとがきで言っている様に、この本はシーグレイブ氏の「Gold Warriors」とエリック・サン・ファンの「Raiders of the Lost Gold」を元に、彼の知識をおり混ぜた物だ。従ってその種本を読んでいる私にとって興味があるのは、恐ろしいほど大量の情報の、どれを、そしてどのように読者に提供するのだろうという事にある。そして、シーグレイプ氏の本当に言いたかったことはなんだろうという私の疑問を解いてくれることを期待した。

高橋氏は残念ながらシーグレイプ氏の本性に気がついていないようだ。単なるジャーナリストであり、この本を書くにあたりずいぶん危ない目にあっていると紹介している。

私はGoldwarriorsの翻訳を終え、最後にこう結論を下した。「彼は世界の支配者のエージェントに違いない。彼は支配者の許可した範囲で、世界に対し、日本やドイツを利用しゴールドをかき集めた実態を披露し、金の戦争が終了間近にあると宣言したのだ。」と。

したがって、シーグレイブ氏があえて書かなかったことに注目したいと思った。つまり、知っている事を書いていないと言う意味である。

一体、GoldWarriorsに書かれている莫大な情報を一般のジャーナリストがどうやって手に入れたと思うのだろう。恐らく諜報機関以外では不可能だ。彼の前作「大和王朝」も、そして「宋王朝」、「マルコス王朝」、どれをとってもとんでもない調査能力が必要だったはずだ。

CIAM16、あるいはモサド以外でこれだけの情報を手に入れることの出来る機関はありえない。間違いなく彼はその一員だろう。

私はこれらの著書を読み、彼が英国の関与を最小限しか書いていないことに気がついた。

要は、英国の手の内は一切見せていないのだ。これは不思議な事であり、大いに怪しいではないか。

「大和王朝」で印象的なのは、裕仁が皇太子の時訪英した話に一章を費やしている事だ。

彼が訪英し色々な体験をしているのだが、シーグレイブ氏はそれを「ガーター勲章への道」であると述べている。その訪英が大成功のうちに終わり、その後に英国は日英同盟を廃棄しているのだ。これがおかしいとは思わないのか。歴史家諸君!この時、歴史が動いたのだよNHKさん。これからアメリカはオレンジ計画を開始した。そして天皇家は世界の富豪の仲間入りする事に決定したに違いない。

「金の百合」の始まったきっかけ、規模などはおおむねよく説明されているのだが、読者はこれだけで信じてくれるだろうか。私は現本を読んでいるからよく分かるが、シーグレイプ氏はたくさんの裁判例、そして場所の説明、隠し方、すべてに多くの紙面を割いて読者に訴えている。恐らく高橋氏の本だけでは説得力はないものと思う。どうなのだろう。

 

「天皇と財閥は戦争を始める前よりもはるかに裕福になった。」これはシーグレイプ氏が重ねて強調してきたことで、これについては高橋氏も良く説明している。ただし、第二次大戦を闘ったすべての戦費を日本の略奪金塊で賄ったという根拠は私には理解できなかったし、ナチスがスイスに隠匿した金塊の量を過小評価しているのではないだろうか。

 

また、ゴールドカルテルが世界の金を支配するその仕組みはほとんど説明できていない。

やはり面倒でもブレトンウッズ体制が終わり、IMFが創設され、ニクソンショックに至る過程、そして金の先物市場COMEXの創設までを描かない事には金塊がどうなったのかわからないのではないか。

鬼塚氏が「金の値段の裏のウラ」を書くきっかけとなったフェルディナント・リップスの「ゴールド・ウォーズ」は、金の支配者たるロスチャイルド銀行に深く関わるリップスが金の市場ですでに勝負があった事を宣言するための本である。そして「Goldwarriors」も同様に世界中の金がすでにスイスに集結している事を説明した物だ。

ここのところを押えて欲しかった。

 

明治天皇すり替え説について、高橋氏はその説自体が自作自演の陰謀説と主張している。

明治天皇の大室氏が南朝の落としだねだとして戦後に熊沢騒動で対立構図を作ったと言う。

この認識を私は認めることは出来ない。熊沢問題は小さな事件ではあっても本質的な問題にはなりえない。

熊沢問題は戦後、マッカーサーが裕仁天皇に対し放った嫌がらせのカードであり、駆け引きに使っただけだ。問題は、明治天皇がすり替えかどうかである。彼がいつの間に馬に乗れるようになったのか、いつから相撲好きだったのか、どうして死ぬ間際に南朝を正統としたのかである。

私も鹿島氏の説により、大室寅之助が南朝の落としだねと信じていた。しかし、これはガセであり、単に被差別部落の男だったのが真相のようだ。

明治の首脳達はそれを十分承知の上、お飾りとして利用したのだ。もちろん生まれた子供たちが明治天皇の子供だと思うのはロマンチストだけだろう。

 

高橋氏は明治維新自体がフリーメーソン達による策謀で、英国が薩長につき、フランスが徳川につき分断支配の構造の中で日本を支配したと述べる。

これには何の異存もない。ただし、私は長州の連中はドイツにかぶれ、英国とはあまり上手くいっていないと考える。そして、日銀を大蔵卿松方正義に設立させ、以後日銀が日本を支配したと書くが、実際は長州閥によりドイツ方式を採用したため、株の半分以上は政府が所有し、自由にはならなかったはずだ。私の歴史観では山縣有朋が失脚するまで英国は日本を十分に支配できていないと思う。

長州は親ドイツであり、ロシアを天敵と定め、北進派で固まっていた。

裕仁の婚約騒動で山縣が失脚し西園寺候が死ぬころには、裕仁及び側近は親英に固まり、英国の陰謀の筋書き通り破滅の道を歩み始める。もっとも、破滅するのは国民とアジアであり、天皇家と財閥は丸々と太る事になる。

戦後処罰された長州軍人はまんまと天皇に裏切られた。天皇は根っから長州が嫌いで、少々言う事を聞いても許してくれるタマではなかったのだ。

マレーの虎、山下将軍も、松井石根もすべて殺される運命にあったといえる。この辺り裕仁の人間性が出ている。鬼塚氏は裕仁の父親は毛利家出身の西園寺八郎ではないかと「日本の一番醜い日」に書いていたが、そのことが彼の長州嫌いの原因であるかもしれない。

 

田中角栄の「57年債」に付いてはとてもわかりやすく解説してあり親切だった。この57年債で使われた手法、つまり、証書の類はいざと言う時、支払いが拒否される現実をシーグレイプ氏は解説してくれた。現実に、私に連絡をくれる人は今でも世界の銀行を相手に裁判で争っている。つまり払わないのだ。

だから、国債、金証書、その他色々な証券は信じてはいけないのですよ、みなさん。

 

何よりも高橋氏は昭和天皇の責任を述べていない。英国と結託した財閥と取り巻きがすべてを支配したと述べている。これは永遠のテーマだろう。答えはわからない。

 

以上、すこし厳しい意見を書いてきたが、何も知らずにこれを読んだとしたらそれなりに驚くべき事実を知る事になるのだろう。そういう点でお奨めの書といえる。

高橋氏の基本的な考え方は十分に評価できるが、細かいところで違いは多い。それが辛口になる原因かもしれない。

皆さんはどう思うのだろうか。読んだ人は意見を下さい。

 

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